工事の前の「家屋調査」とは

事前家屋調査は、工事が近所の家に影響したかを判断する資料にするため、工事の前に、周りの家の状態を記録しておく調査です。工事のあとには、同じ箇所を調べて比べる事後調査が行われます。

  • 誰が行うか:発注者や施工業者が依頼した調査会社(補償コンサルタントなど)が行うのが一般的です。公共工事では、発注者が委託する例(東京都)や、施工者が行う例(札幌市・川崎市)があります。民間の解体工事でも、解体業者が依頼した調査会社が事前・事後の調査をした例があります(公害等調整委員会の座間市の事件)。
  • 調べる場所:国土交通省関東地方整備局の説明資料では、基礎、柱・敷居、建具、床、天井、内壁、外壁、屋根、水回り、外構、井戸などを、目で見える範囲で、スケッチ・写真・調書に記録します。
  • 記録のしかた:札幌市の仕様書では、ひびの幅を mm、長さを cm で測り、柱の傾きを測り、撮影年月日を書いた黒板と一緒に写真を撮ります。所有者が立ち会い、調査書に確認印をもらいます。
  • 費用:東京都下水道局の案内では、公共工事の家屋調査は無料で、屋外だけの調査を選ぶこともできます。

工事が始まる前にしておくこと

  1. 事前家屋調査があるかを確かめる。工事のお知らせや説明会で、施工業者・発注者に確かめます。民間の工事では行われないこともあります。
  2. 調査を受け、立ち会う。東京都建設局は、調査を断ると工事の前の記録がないため、工事との因果関係を確かめられないとしています。調べてほしい箇所は、調査のときに調査員に申し出ることができます。
  3. 調査の結果を確かめる。八尾市の要領は、調査したときの家の状態を住民に確認してもらうとしています。記録された内容に、気になる箇所が漏れていないかを見ておきます。
  4. 民間の工事なら、工事協定を考える。横浜市は、騒音・振動が大きい工事では工事協定を結び、家屋の被害の補償についても事前に確かめておくよう勧めています。
  5. 自分でも写真を撮っておく。次の一覧を参考に、今の状態を撮ります。ただし、東京都建設局は、本人が撮った写真は都が委託する調査の代わりにはならないとしています。自分の写真は、正式な調査を補うものと考えてください。

自分で撮っておく写真(一覧)

近隣の工事の前に自分で撮っておきたい写真(家屋調査で調べる箇所をもとに)
撮る場所撮り方
外壁(4面)家の全体を4方向から。工事現場の側は特に細かく
基礎家の周りを一周して、ひびのある箇所は全体とアップ
今あるひび定規やクラックスケールを当て、幅と長さがわかるように。位置がわかる引きの写真も
室内の壁・天井・床部屋ごとの全体と、ひびや隙間のアップ
建具ドアや窓、ふすまの閉まり具合。開け閉めのしにくさは動画やメモで
水回り浴室や洗面所のタイル、目地のひび
外構塀、門柱、駐車場の土間コンクリート、擁壁
  • 工事のあとに同じ位置から撮れるように。どこから撮ったかをメモし、家の間取り図に番号を書いておくと、比べやすくなります。
  • 撮影日がわかるように。スマートフォンの日時は自動設定にしておきます。撮った写真を、その日のうちに家族に送っておくと、送った日時の記録が相手の側にも残ります。
  • 撮ったままの元のファイルを残す。明るさの調整やトリミングをしないで保存します。

工事中:振動・騒音の記録と規制

  • 記録をつける。大きく揺れた日時、そのときの作業(重機の種類など)、揺れ方、気づいた変化を書き留めます。
  • 規制のしくみ:くい打機やブレーカーを使う作業など、振動規制法の「特定建設作業」は、指定地域内では作業開始の7日前までに市町村長への届出が必要で、敷地の境界で振動75デシベル、騒音85デシベル(騒音規制法)の基準、夜間や日曜・休日の作業の禁止などが定められています。基準を超えて周りの生活環境が著しく損なわれるときは、市町村長が改善を勧告できます(振動規制法第15条)。
  • ただし、規制にあたらない工事もあります。環境省の手引きによると、近年の解体で主流の、油圧ショベルに圧砕機を付けた作業は特定建設作業にあたりません。東京都のように、条例で対象を広げている自治体もあります。また、規制基準の値は、建物に被害が出たかどうかを判断する基準ではありません。
  • スマホのアプリの測定値には限界があります。公害等調整委員会の座間市の事件(2025年3月)では、スマートフォンの振動計アプリの記録は、計量法上の振動レベル計にあたらないとして採用されませんでした。振動が気になるときは、市区町村の公害苦情相談窓口に相談してください。

工事のあとにひびを見つけたら

  1. 工事の前と同じ位置から撮る。ひびの全体とアップを、定規やクラックスケールを当てて撮り、見つけた日を記録します。
  2. 施工業者(公共工事なら発注者)に、書面で伝える。いつ、どこに、どんな変化があったかを、写真を添えて伝え、控えを残します。
  3. 事後調査を求める。工事の前の調査と同じ箇所を調べて比べてもらいます。東京都下水道局は、工事の完了後、地盤が落ち着くまで3〜6か月ほど待ってから事後調査を行い、希望者が書類を出す形にしています。愛媛県の資料は、事後調査を断ると補償できないとしています。案内に従って、期限内に申し出てください。
  4. 補修を急ぐ場合も、先に写真を。雨漏りなどで補修を急ぐときも、補修の前に撮り、業者に連絡してから進めます。

公共工事の場合:完了から1年以内に

国の公共工事(国土交通省の直轄工事)では、「公共事業に係る工事の施行に起因する地盤変動により生じた建物等の損害等に係る事務処理要領」にもとづいて、費用の負担が検討されます。工事の振動による建物の損害も、当分の間この要領で処理するとされています(附則)。

  • 工事の前に調べる:損害のおそれがあるときは、着工前か工事中に、建物の配置や現況などを調べます(第2条)。
  • 負担される範囲:社会生活上がまんすべき範囲を超える損害、つまり建物が本来の機能を損なった場合に、必要最小限の費用を負担できるとしています(第6条)。
  • 請求の期限:工事の完了の日から1年を経過する日までに請求があった場合に限り、費用を負担できるとしています(第10条)。自治体の工事でも、堺市上下水道局の要領のように、工事の完了から1年以内を事後調査の申出の期限とする例があります。

誰に請求するか(民法)

  • 民間の工事は、ふつうは施工業者に。故意または過失で他人の権利を侵害した人は、損害を賠償する責任を負い(民法第709条)、従業員が仕事で与えた損害は会社が責任を負います(第715条)。
  • 施主(注文者)は、原則として責任を負いません。民法第716条は、注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない、ただし注文または指図について注文者に過失があったときはこの限りでない、と定めています。
  • 期限:損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効になります(第724条)。

工事が原因だと示すのは簡単ではない

補償を受けるには、ひびが工事によって生じた(因果関係がある)ことを示す必要があります。ここで、工事の前の記録が重要になります。

  • 工事前後の比較が理想:法律事務所の解説では、工事の前と後の家屋調査の写真・映像を比べて立証するのが理想とされ、事前調査がなかった事案では、ひびが元からあったかどうかが争点になったと紹介されています。事前調査の写真に損傷がなく、事後調査で損傷が確かめられれば、因果関係は認められやすいとする法律事務所もあります。
  • 裁判所も写真の対応を求める:大阪地方裁判所の第10民事部は、隣地などの工事による被害を主張するとき、工事前の状況と工事後の被害を、被害箇所と対応する写真・図面で示すよう求めています。
  • 認められなかった例:公害等調整委員会の座間市の事件(2025年3月25日、申請棄却)では、工事の振動は近くでも震度3相当(78〜88デシベル)程度とされ、実験では80デシベルで既存のひびが広がり始め、95デシベルで新しいひびが出たこと、基礎の幅0.5mm未満の細いひびは新築から数年でも生じうること、工事から1年以上たっても損傷が増え続けたことなどから、工事が原因とは認められませんでした。海老名市の事件(2014年11月)でも、工事前後の測定値の差は誤差の範囲とされました。
  • 調停で解決した例もあります:荒川区の事件(2025年4月に調停成立)や、事前調査をしないまま工事が進んだと申請人が主張した成田市の事件(2019年9月に調停成立)があります。公害等調整委員会の事件は、申請から終わるまで1年半〜2年ほどかかっています。

相談先と、調停などの手続

  • 市区町村の公害苦情相談窓口:振動は、環境基本法の典型7公害の一つです。相談は無料で、窓口が現地を調べ、発生源に指導・助言します。公害等調整委員会も、振動の困りごとの例として「工事現場のトラックの出入りや作業機械のせいで、家が揺れ、壁にひびが入る」を挙げています。ただし、さいたま市のように、損害賠償など民事のトラブルには行政が介入できないとする自治体もあります。
  • 公害紛争処理制度:話し合いがまとまらないときは、都道府県の公害審査会の調停などを利用できます(裁定は国の公害等調整委員会だけが行います)。公害等調整委員会の手数料は、調停が請求額100万円まで1,000円、責任裁定が100万円まで1,400円です。都道府県の手数料は県ごとに違います。公害等調整委員会の公害相談ダイヤルは 03-3581-9959 です。
  • 建設工事紛争審査会は使えません:工事に伴う近隣者との紛争は扱わないとされています(福島県)。
  • 弁護士・法テラス:補償の請求や裁判は、弁護士に相談してください。法テラス・サポートダイヤルは 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)です。

注意したいこと

  • 「近所で工事している」と訪ねてくる点検商法に注意。国民生活センターは、「近所で工事している」「近所で行う工事のあいさつに来た」と言って訪ね、屋根の点検や工事を勧める手口を紹介しています(2023年10月)。不安なときは、消費者ホットライン188に相談してください。
  • 写真を加工しない。見やすくするための切り取りや補正は、コピーに対して行い、元のファイルを残します。
  • 一人で業者と言い争わない。やりとりは書面で残し、話がまとまらなければ、公害苦情相談窓口や弁護士に相談します。

PEA でできること・できないこと

PEA は、画像を性質の異なる8つの解析で調べ、AI による生成・加工の手がかりを1〜10のグレードで示す画像鑑定サービスです。ひびが工事によって生じたかどうかを判断するものではありません。

まずは、費用のかからないことから。事前家屋調査を受けて立ち会う、自分でも撮る、元のファイルを残す。これがいちばん先にやることです。

  • 工事の前の写真が、その時点で存在したことを、第三者が照合できる形で残せます。鑑定すると、写真のファイルのハッシュ値(SHA-256)と鑑定の内容に、電子署名と第三者のタイムスタンプ(RFC 3161)が付きます。タイムスタンプの時刻は、鑑定した時点です。着工の前に鑑定しておけば、「遅くとも工事が始まる前に、この写真が存在した」ことを示す材料になります。
  • 鑑定書にするのは7日以内です。無料の鑑定の結果は7日で消えます。後で比べたい写真は、7日以内に鑑定書(1件¥1,000)にしてください。見せた相手は、証明書番号で照合のページから発行日時・ハッシュ値・タイムスタンプの時刻を確かめられます。
  • 全部の写真を鑑定書にする必要はありません。工事現場の側の外壁や基礎の全体、今あるひびのアップなど、比べることになりそうな数枚に絞るのが現実的です。
  • 写真のファイル(JPEG・PNG・HEIC、25MB まで)が対象です。建具の動きを撮った動画は鑑定できないので、元のファイルのまま保存してください。

PEA は、写真を撮った日時や撮影者、ひびがいつ・何によって生じたか、工事との因果関係は証明できません。示せるのは、写真のファイルが鑑定の時点で存在し、以後変わっていないことと、鑑定の内容です。正式な家屋調査の代わりにはなりません。鑑定書のタイムスタンプは、総務大臣の認定を受けたタイムスタンプではありません。業者や調停・裁判でどう扱われるかは保証できません。写真の日付の示し方は写真の日付を証明するにはで解説しています。

よくある質問

近隣で工事が始まる前に、自分でできることは何ですか?

まず、施工業者や発注者に、工事の前の家屋調査(事前家屋調査)をするかを確かめ、するなら立ち会って、調べてほしい箇所を調査員に伝えます。東京都は、調査を断ると工事前の記録がないため、工事との因果関係を確かめられないとしています。あわせて、自分でも外壁・基礎・室内の既存のひびを、定規を当てて全体とアップで撮っておくと、工事後に比べる材料になります。横浜市は、騒音・振動が大きい工事では工事協定を結び、家屋の被害の補償も事前に確かめるよう勧めています。

工事の振動で家にひびが入ったら、どうすればいいですか?

工事の前と同じ位置から、ひびの全体とアップを、定規やクラックスケールを当てて撮り、日付を記録します。施工業者に書面で伝え、工事前の調査と比べる事後調査を求めます。国の公共工事の場合、国土交通省の要領では、費用の負担は工事の完了の日から1年以内に請求があった場合に限られます。話がまとまらないときは、市区町村の公害苦情相談窓口や、都道府県の公害審査会の調停を利用できます。

近隣の工事の被害は、誰に請求するのですか?

民間の工事では、ふつうは工事をした施工業者(請負人)に請求します(民法第709条・第715条)。工事を注文した施主(注文者)は、請負人が第三者に与えた損害の責任を原則として負わず、注文や指図に過失があった場合に限って責任を負います(民法第716条)。国の公共工事では、国土交通省の要領にもとづいて費用の負担が検討されます。

工事前の家屋調査がないと、補償を受けられませんか?

受けられないわけではありませんが、ひびが工事の前からあったかどうかが争いになりやすくなります。法律事務所の解説でも、工事前後の家屋調査の写真を比べるのが理想とされています。自分で撮った写真も材料になりますが、東京都は、本人が撮った写真は都が委託する調査の代わりにはならないとしています。事前調査を受けたうえで、自分でも撮っておくのが確実です。

スマホのアプリで振動を測った記録は、証拠になりますか?

限界があります。公害等調整委員会の座間市の事件(2025年3月25日)では、スマートフォンの振動計アプリの記録は、計量法上の振動レベル計にあたらないとして採用されませんでした。振動が気になるときは、日時と作業の内容を記録したうえで、市区町村の公害苦情相談窓口に相談してください。窓口が現地を調べ、発生源に指導・助言します。

出典