職場のパワハラとは(3つの要素と6つの類型)

この記事は、職場でパワハラやカスハラを受けている人が、記録をどう残すかを考えるための一般的な情報で、法的な助言ではありません。パワハラにあたるか、どの手続を選ぶかは、事案ごとに異なります。個別の事情は、総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。

何を記録すればよいかは、法律でいう「職場のパワーハラスメント」が何を指すかを知っておくと、見えてきます。

厚生労働省によると、職場のパワーハラスメントは、職場で行われる次の3つの要素をすべて満たすものです。

  1. 優越的な関係を背景とした言動(上司からの言動のほか、業務に必要な知識や経験を持つ同僚・部下からの言動や、同僚・部下の集団による行為も含まれます)
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

ただし、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラにはあたりません。厳しい指導がすべてパワハラになるわけではない、という点は押さえておいてください。

厚生労働省は、典型的な例を次の6つの類型に整理しています(これにあたらないものがパワハラではない、という意味ではありません)。

  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
  • 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこと)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

会社には、パワハラを防ぐための措置が義務づけられています。労働施策総合推進法は、事業主に、相談に応じて適切に対応するための体制の整備などの措置を義務づけ、相談したことや、会社の調査に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています(第31条第1項・第2項)。

補足:2026年10月1日に改正法が施行され、パワハラの措置を定めた条文は第30条の2から第31条に移りました(労働局による紛争解決の援助・調停も、第30条の5・第30条の6から第36条・第37条になりました)。これより前に書かれた解説では、条番号が違うことがあります。

証拠で示したいこと

証拠は、たくさん集めればよいというものではありません。パワハラの3つの要素に照らして、何を示したいかを意識すると、残すものを選びやすくなります。

  • 何があったか:いつ、どこで、誰が、何を言ったか・したか。言葉はできるだけそのまま。
  • どんな関係で行われたか:相手が上司か、同僚の集団か、など。
  • 業務上必要な範囲を超えていたか:厚生労働省の指針は、この判断に当たって、言動の目的、そこに至った経緯や状況、業務の内容、言動の態様・頻度・継続性などを総合的に考えるとしています。暴言の一言だけでなく、前後の流れ、何回・どのくらいの期間続いたかがわかる記録が大切です。
  • どんな影響があったか:眠れない、通院した、仕事ができなくなった、など。指針は、就業環境が害されたかを「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断するとしています。

自分に不利に見える事情(自分のミスがきっかけだった、など)も、隠さずに記録しておいてください。指針は、労働者の行動が問題になる場合は、その内容・程度と指導の態様との関係が重要な要素になるとしています。前後の事情がわかる記録のほうが、全体として信用されやすくなります。

証拠の種類と残し方(一覧)

1つの証拠だけで決まることは多くありません。種類の違う記録を組み合わせて、互いに裏付け合えるようにするのが基本です。

パワハラの証拠の種類と、残し方・注意点(一般論)
証拠の種類残し方注意点
LINE などの個人のメッセージ日付・時刻・相手の名前が写った画面全体を、前後を重ねて続けて撮る。相手のプロフィール画面も撮る。トーク履歴のテキスト保存も相手が送信を取り消すと、こちらの画面からも消える。画像や動画はサーバーで見られる期間が限られる
会社のメール・チャット(Slack・Teams など)自分あてに届いたパワハラにあたるメッセージを、日時と送った人がわかる形で残す会社が管理するツール。会社の規程に反する大量の転送や持ち出しは避ける。退職や異動で見られなくなることがある
録音自分が加わっている会話を、編集せずに丸ごと残す。日時・場所・その場にいた人をメモに書き添える自分がいない場に録音機を置かない。就業規則で録音が禁止されている場合は注意。ネットで公開しない
動画・写真暴力や物を投げる場面、けが、壊された物などを撮る。元のファイルを残す撮ることで危険が増す場面では、身の安全を優先する
メモ・日記その日のうちに、日時・場所・相手・言われたこと・周りにいた人・影響を具体的に書く。消せないペンで、続けて書く後からまとめて書いたものや、あいまいなものは信用されにくい。日付をさかのぼって書かない
医師の診断書・通院の記録体調を崩したら早めに受診し、職場での出来事を医師に伝える。領収書や処方の記録も残すパワハラがあった時期と診断書の日付が離れていると、関係を示しにくくなることがある
同僚などの証言見ていた人・聞いていた人の名前と、その場面を控えておく証言をお願いすると、その人の立場が苦しくなることもある。証言だけだと、客観的な記録より信用されにくいことがある
仕事の記録勤務時間の記録、業務の指示、仕事の割り当て、配置換えの通知など、自分が受け取った記録を残す過大・過小な要求を示す材料になる。会社の機密や他の人の個人情報が含まれるものは、持ち出す範囲に注意
相談した記録社内の窓口や上司、外部の窓口に相談した日と内容を書き留める。メールで相談したらその控えもその頃に困っていたことを示す材料の一つ。相談したことを理由とする不利益な取扱いは法律で禁じられている

この表は、厚生労働省の資料と法律事務所の解説をもとにした一般的な整理です。何がどう評価されるかは、事案ごとに異なります。

LINE・メール・社内チャットを残す

文字で残るやりとりは、言われた内容と日時をそのまま示せるため、大切な材料です。一方で、画像のスクショは「書き換えた」「切り取った」と言われることもあります。画面全体を、続けて、元のデータと一緒に残すのが基本です。スクショ一般の考え方と撮り方は、スクショは証拠になる?で詳しく解説しています。

LINE で届いたパワハラ

勤務時間外の LINE で暴言が届く、私生活について執拗に聞かれる、職場のグループから外される、といった相談は少なくありません。LINE のメッセージは、次のように残します。

  1. 画面全体を、続けて撮る。日付の区切り、各メッセージの時刻、相手の表示名が入るようにし、問題のメッセージの前後も少しずつ重ねて撮ります。
  2. 相手のプロフィール画面も撮る。表示名だけでは、誰のアカウントかを示しにくいことがあります。
  3. トーク履歴をテキストでも保存する。トーク画面のメニューから[設定]→[トーク履歴を送信]で、テキスト形式(.txt)で保存できます。保存されるのは今表示されている範囲だけで、テキストは書き換えられるため、スクショと両方を残します。
  4. 届いた画像や動画は、早めに端末に保存する。LINE のサーバーで見られる期間は限られています。
  5. トークを消さない。相手が送信を取り消すと、こちらの画面からも消えます。届いたときに早めに残しておくのが確実です。

具体的な手順と LINE の仕様は、スクショは証拠になる?の「LINE のトークを残すには」にまとめています。相手が「そんなメッセージは送っていない」「スクショは捏造だ」と言ってきたときの考え方は、LINEのスクショは偽造できる?も参考にしてください。

メール・Slack・Teams など会社のツール

業務のメールや社内チャットでの叱責、全員の前での人格否定、自分だけ連絡から外される、といったことも記録の対象です。

  • 自分あてに届いたもの、自分が加わっている会話から残す。日時、送った人、宛先(誰に見える形だったか)がわかるように、画面全体を撮ります。
  • 会社が管理するツールだということを忘れない。退職や異動でアカウントが使えなくなったり、会社の設定によっては一定期間が過ぎたメッセージが自動で消えたりすることがあります(たとえば Slack では、管理者がメッセージの保存期間を設定でき、期間を過ぎて削除されたデータは復元できないと案内されています)。気づいたときに早めに残しておくのが安心です。
  • 業務メールを私用のアドレスにまとめて転送するなどの持ち出しは、慎重に。会社の規程に反するおそれがあり、顧客の情報や他の社員の個人情報が含まれていると、別の問題を招きます。残すのは、パワハラにあたる自分あてのやりとりに絞り、扱いに迷うものは、持ち出す前に弁護士に相談してください(やってはいけないこと)。
  • 会社のサーバーに残っている記録は、社内の窓口に調査を求めたり、手続の中で会社に提出を求めたりする方法が考えられます。どんな方法があるかは、弁護士に相談してください。

録音は証拠になる?録るときの注意

暴言や威圧的な叱責は、録音があると、言葉や口調をそのまま示せます。厚生労働省のハラスメント対策のサイト「あかるい職場応援団」も、ハラスメントと思われる行為を受けたら、メモや録音など適した方法で記録を残すことを勧めています。法テラスも、事実経過や加害者の言動のメモを作る、録音をするなどして証拠を残しておくことを挙げています。

相手に断らずに録音してよいのか、という点は、次のように考えられています。

  • 民事の裁判では、無断の録音でも、証拠として使えることが多いとされています。弁護士の解説では、東京高裁の判決(1977年7月15日)が、「著しく反社会的な手段を用いて、人格権を侵害するような方法」で集められたものでなければ証拠として使えるという考え方を示したと紹介されています。そのうえで、被害を受けている本人が、証拠を集めるために職場での自分の会話を録音する程度であれば、そうした方法にはあたらないという見方を示す弁護士もいます。
  • ただし、どんな録音でも使えるわけではありません。大学のハラスメント調査委員会の非公開の会議を無断で録音したものについて、証拠として認めなかった判決(東京高裁2016年5月19日)もあると紹介されています。また、自分以外の人と相手との会話をこっそり録音するような場合は、証拠として認められない場合にあたりうると指摘する弁護士もいます。
  • 会社の規則にも注意が必要です。就業規則で職場での録音が禁止されている場合などには、録音したこと自体が懲戒の対象になるおそれがあると説明する法律事務所もあります。規則がある場合や、録音してよいか迷う場合は、先に弁護士に相談してください。

録るときは、次の点を心がけてください。

  • 自分が相手と話している場面を録る。自分がいない会議室や相手の机に録音機を置いて、他人どうしの会話を録ることはしないでください。
  • 編集せず、丸ごと残す。都合のよい部分だけを切り出すと、前後を省いたと疑われます。一連の流れを録って、元のファイルをそのまま保存し、別の場所にもコピーを残します。
  • メモを添える。録音した日時、場所、その場にいた人、問題の発言が何分ごろにあるかを書き留めておくと、あとで説明しやすくなります。
  • 録音をネットで公開したり、人に配ったりしない。証拠は、相談や手続の中で使うものです。

録音は、相手を挑発して発言を引き出すためのものではありません。また、録音を続けることがつらいとき、身の危険を感じるときは、無理をせず、メモで記録して早めに相談してください。

メモ・日記の書き方

録音がなくても、メモや日記は大切な証拠になります。特に、毎日のように続くパワハラは、そのつど録音するのが難しいことも多く、メモや日記で積み重ねを示すことになります。

書く項目

あかるい職場応援団は、いつ・どこで・誰が・何を・何のために・どのように(5W1H)されたのかを記録するよう勧めています。具体的には、次の項目を書いておくと、後で整理しやすくなります。

メモ・日記に書いておきたい項目
項目書き方の例
日付・時刻2026年10月5日(月)9時40分ごろ
場所第2会議室、朝礼のとき、LINE で、など
誰が相手の名前と役職。複数人ならそれぞれ
何を言われた・されたか言葉はできるだけそのまま書く。「怒鳴られた」だけでなく、何と言われたか、声の大きさ、物を叩いたかなど
きっかけ・前後の流れ何の話の途中だったか、その前に何があったか(自分のミスがきっかけでも書く)
周りにいた人見ていた人・聞いていた人の名前
自分の対応何と答えたか、誰かに相談したか
影響眠れなかった、食欲がない、受診した、仕事を休んだ、など。そのときどう感じたか
ほかの記録録音した、メールが届いた、写真を撮った、など。ファイル名も

信用されやすくする工夫

法律事務所の解説では、メモや日記は、次のようなものほど信用されやすく、その逆は信用されにくいとされています。

  • 出来事から時間をおかずに書いている(後からまとめて書いたものは信用されにくい)
  • 紛争になる前から、続けて書いている
  • 日時や内容が具体的(あいまいなものは信用されにくい)
  • 消せるペンや鉛筆ではなく、修正できないペンで書いている

また、パワハラのことだけを書いたメモより、ふだんの出来事を書いている日記の中にパワハラのことも書かれているほうが信用されやすい、と説明する法律事務所もあります。書き間違えたときは、消したり破ったりせず、線を引いて直すようにすると、後から書き換えたと疑われにくくなります。

スマートフォンのメモアプリやパソコンでつける場合も、同じ項目を書きます。ただし、デジタルのメモは後から書き換えられるため、次の「書いた時点を残す」方法と組み合わせると安心です。

「その日までに書いていた」ことを残す

メモや日記に対しては、「後からまとめて作ったのではないか」と言われることがあります。そのときに備えて、書いた時点で、自分だけでは書き換えられない記録を作っておく方法があります。

  • その日のうちに、信頼できる人に送る。書いたメモをメールやメッセージで家族などに送っておくと、送った日時の記録が相手の側にも残ります。
  • その日のうちに、ページの写真を撮って固定する。手書きの日記なら、書いたページを撮影し、その写真のファイルに第三者のタイムスタンプを付けておく方法があります。
  • 公証役場で確定日付をもらう。署名などの要件を満たした文書なら、1件700円で、その日に文書が存在したことの証明を受けられます。対象になるかは、事前に公証役場に確認してください。

ここで注意したいのは、こうした方法が示すのは「遅くともその時点で、そのメモ(または写真のファイル)が存在した」ことだという点です。

  • 示せること:遅くともその日までに、そのメモが書かれていたこと。それ以後、書き換えられていないこと(固定した写真やファイルについて)。
  • 示せないこと:書かれた内容が本当であること。また、メモを書いた日時そのもの(古いメモを後日固定しても、日付は固定した日になります)。

それでも、出来事のあった日のうちに固定したメモが、何日分も続いていれば、「後から都合よく作ったのでは」という疑いに答える材料になります。「遅くとも」と「早くとも」の考え方や、タイムスタンプ・確定日付の違いは、写真の日付を証明するにはで詳しく解説しています。

診断書・同僚の証言・仕事の記録

  • 医師の診断書・通院の記録:眠れない、気分が落ち込む、体調が悪いといった状態が続くなら、早めに受診し、職場で何があったかを医師に伝えてください。法律事務所の解説では、パワハラの被害と近い時期に診断書を取っておくと、強い精神的な苦痛を受けていたことを示しやすくなる一方、診断書だけで他の証拠がない場合や、パワハラがあった日と診断書の日付が離れている場合は、パワハラとの関係が否定されるおそれがあるとされています。仕事が主な原因で精神障害を発病した場合は、労災保険の請求ができることがあります(相談先)。
  • 同僚などの証言:見ていた人、聞いていた人の名前を控えておきます。厚生労働省の指針は、相談した人と行為者の言い分が食い違い、事実の確認が十分にできない場合には、会社が第三者からも事情を聴くことを、適切な対応の例として挙げています。社内の窓口に相談するときは、その場にいた人の名前を伝えられるようにしておくとよいでしょう。ただし、証言をお願いすると、その人の立場が苦しくなることもあります。無理に頼んだり、内容を指示したりはしないでください。
  • 仕事の記録:勤務時間の記録、仕事の指示や割り当て、評価、配置換えの通知など、自分が受け取った記録は、「過大な要求」「過小な要求」「仕事を与えない」といった類型を示す材料になります。会社の機密や他の人の個人情報が含まれるものの扱いは、やってはいけないことを確認してください。
  • 写真・動画:けが、壊された物、張り出された文書など、目に見えるものは撮っておきます。撮影した元のファイルを残してください。

証拠がないとき・メモだけのとき

「録音もメールもない」「メモしかない」という人は少なくありません。証拠が少なくても、できることはあります。

  1. 今日から記録を始める。上のメモ・日記の書き方にそって、これから起きることをそのつど書きます。
  2. これまでのことも、覚えているうちに書き出す。そのときは、今日の日付で、「思い出して書いた」とわかる形で書いてください。日付をさかのぼって、その日に書いたように見せるのはやめましょう。
  3. 残っている記録を探す。昔のメールやチャット、LINE、勤務時間の記録、通院の記録、家族や友人に当時送ったメッセージなどに、手がかりが残っていることがあります。
  4. 見ていた人を思い出す。名前と、その場面を書き留めておきます。
  5. 相談する。社内の相談窓口、総合労働相談コーナー(無料・予約不要・匿名でも可)、弁護士や法テラスに相談できます。証拠がそろっていなくても相談はできますし、何をどう残せばよいかの助言も受けられます。

メモだけでも証拠として出すことはできます。ただし、メモは本人が書いたものなので、ほかの材料と合わせて評価されます。具体的で、そのつど続けて書かれたメモほど信用されやすいとされています(信用されやすくする工夫)。メモに加えて、診断書、相談した記録、見ていた人の名前など、メモの内容と合う記録を少しずつ足していくことが大切です。

会社に相談すると、会社には事実を確かめる義務があります。厚生労働省の指針は、相談があったときに、会社が事実関係を迅速かつ正確に確認すること、確認が難しい場合には、労働局の調停など中立な第三者機関に紛争の処理を委ねることなどを挙げています。

会社の対応に納得できないときは、労働局の制度を使えます。パワハラを防ぐための会社の措置や、相談したことを理由とする不利益な取扱いをめぐるトラブルについては、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が、労働局長による助言・指導・勧告と、弁護士などの専門家による調停を、無料で行っています(労働施策総合推進法第36条・第37条)。どの制度が使えるかは、総合労働相談コーナーで案内を受けられます。裁判中や、ほかの機関で手続中の場合は、利用できないこともあります。

損害賠償を求める場合には、期限(時効)があります。いつから何年かは、請求の根拠や被害の内容によって異なります。退職を考えている、体調が悪化している、という場合も含めて、早めに弁護士や法テラスに相談してください。

カスハラ(顧客などからの迷惑行為)を受けたとき

客や取引先、施設の利用者などからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント、カスハラ)も、記録の残し方の基本は同じです。

2026年10月1日から、会社にはカスハラを防ぐための措置が義務づけられました(労働施策総合推進法第33条)。厚生労働省の指針は、職場のカスハラを、①顧客などの言動であって、②業務の性質などに照らして社会通念上許される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、3つをすべて満たすものとしています。正当な苦情や申し入れはカスハラにはあたりません。店頭だけでなく、電話や SNS などインターネット上で行われるものも含まれます。

指針は、会社が定める対応の例として、管理監督者にすぐ報告すること、できるだけ一人で対応させないこと、顧客などとのやりとりを録音・録画すること(個人情報保護法などを守って)、暴行・傷害・脅迫など犯罪にあたりうる言動は警察に通報することなどを挙げています。厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルも、カスハラが疑われる場合は、録音・録画、対応の記録、時間の計測など、第三者が確かめられる証拠を集めるとしています。

働く人の側でできることは、次のとおりです。

  • 一人で抱えず、すぐに上司や担当者に報告する。会社が定めた対応の手順があれば、それに従います。
  • 録音・録画は、会社のルールに沿って行う。電話の録音や店内のカメラなど、会社の仕組みがあれば、記録が残っているかを上司に確かめ、保存を頼みます。
  • 自分でもメモを残す。日時、相手(わかる範囲で)、言われたこと・されたこと、対応にかかった時間、同席していた人、その後の体調を、時系列で書きます。マニュアルも、現場で対応した人が事実関係を時系列で整理して報告することが望ましいとしています。
  • 会社に相談したことを理由に、不利益な取扱いをすることは禁じられています(同法第33条第2項)。会社の対応をめぐるトラブルは、パワハラと同じく、労働局の助言・指導・勧告や調停の対象になります(同法第35条〜第37条)。
  • 顧客などから著しい迷惑行為を受けて精神障害を発病した場合も、労災の認定で業務による心理的負荷として評価される出来事の一つに挙げられています。

お客さまの個人情報が写った録音・録画や画面を、会社の外に持ち出したり、SNS に載せたりしないでください。記録は会社と相談先との間で使うものです。

やってはいけないこと

  • 会社の機密や顧客の情報、他の社員の個人情報を、必要以上に持ち出す。証拠のためでも、会社の資料の持ち出しが懲戒の理由とされることがあります。公益通報をめぐる裁判例をまとめた消費者庁の資料では、持ち出しの必要性や、問題と関係のないデータまで取っていたかなどが考慮された例が紹介されています。残すのは自分あての必要なものに絞り、迷ったら持ち出す前に弁護士に相談してください。
  • 他人のアカウントやパソコンに、無断でログインする・データを取る。他人の ID やパスワードを無断で使うことは、不正アクセス禁止法で禁じられた犯罪です。同僚のパソコンや USB メモリから無断でデータを取ったことなどを理由とする解雇が有効とされた裁判例もあります。
  • 自分がいない場所に録音機を置く。他人どうしの会話をこっそり録ることは、証拠として認められないおそれがあるうえ、別の問題を招くことがあります。
  • SNS に投稿する・録音や画面を公開する。書いた内容が事実でも、名誉毀損にあたるおそれがあります(刑法第230条)。会社名や相手が特定できる形での投稿は避け、相談先に伝えてください。
  • 記録を書き換える、日付をさかのぼる、都合のよい部分だけを切り取る。記録全体が疑われる原因になります。見せるために切り取る・塗りつぶすときは、コピーに対して行い、元のファイルを残します。
  • 体調を崩してまで証拠集めを続ける。証拠より、あなたの健康と安全が先です。つらいときは、記録が少なくても先に相談してください。

PEA でできること・できないこと

PEA は、画像を性質の異なる8つの解析で調べ、AI による生成・加工の手がかりを1〜10のグレードで示す画像鑑定サービスです。パワハラの記録については、次のことができます。

  • 無料の鑑定(1日1件)で、グレードと判定の要約がわかります。
  • LINE やチャットのスクショに、トークを特定する表示がそろっているかを示します。画面のスクリーンショットかどうかを判定し、送信の日時、送信者のアカウント名や ID、画面全体を保存したか、前後のやりとりが写っているか、切り取りの形跡がないかを一覧で示します。相談や手続の前に、欠けている表示がないかを確かめられます。
  • AI で作られた画面か、加工の手がかりがあるかを判定します。
  • 痕跡が見つからなくても、「メッセージが実在した」とは言いません。画面の表示を書き換えてから保存すると、画像には加工の痕跡が残りません。そのため、痕跡が見つからないスクショはグレード6(改変の兆候なし)までとし、画面に表示された内容が実在したかは対象外であることを鑑定書に明記します。
  • 根拠を示せない画像には、グレードを付けません。画面を別のカメラで撮り直したことがはっきりしている画像や、強い圧縮で判断の材料が残っていない画像などは「判定外(Grade -)」とし、有人鑑定をご案内します。
  • 画像の状態を固定できます。鑑定書(1件¥1,000)にすると、鑑定した時点のファイルのハッシュ値を電子署名で封印し、第三者の時刻認証局によるタイムスタンプ(RFC 3161)を付けた鑑定書になります(タイムスタンプの時刻は、鑑定した時点です)。そのファイルが鑑定の時点で存在し、以後変わっていないことを、弁護士などの第三者が照合ページで証明書番号を入力して確かめられます。料金は料金のページをご覧ください。
  • タイムスタンプの時刻は鑑定した時点なので、日記のページの写真などは、書いた日のうちに鑑定してください。無料の鑑定の結果は7日で消えるため、鑑定書にするのはその7日以内です。
  • 鑑定できるのは画像のファイル(JPEG・PNG・HEIC、25MBまで)です。録音(音声)や動画は鑑定できません。録音や動画は、元のファイルのまま保存しておいてください。
  • 画像は、ご本人だけが見られる設定で保存します。運営者は画像を見ません。担当者が画像を確認するのは、有人鑑定をご依頼いただき、開示に同意された場合だけです。鑑定の一部では、外部の解析サービスに画像を送信します(送信先はプライバシーポリシーに記載しています)。鑑定に出すのは、自分あてのメッセージなど必要な画像に絞り、会社の機密や他の人の個人情報が多く写った画像は避けてください。

PEA は、メッセージが本当に送られたか、誰が送ったか、メモに書かれた内容が本当か、パワハラがあったかは確かめられません。示せるのは、画像のファイルが鑑定の時点で存在し、その後変わっていないことと、鑑定の内容です。鑑定書のタイムスタンプは、総務大臣の認定を受けたタイムスタンプではありません。鑑定書が労働局の手続や裁判で証拠として採用されることも保証できません。PEA の結果は判断材料の一つとして、元のデータや記録と合わせて、相談先と相談しながら使ってください。

相談先

  • 社内の相談窓口・人事部:会社には、パワハラやカスハラの相談に応じて適切に対応する体制を整える義務があります。相談したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、法律で禁じられています。
  • 総合労働相談コーナー(各都道府県労働局と労働基準監督署の中などにあります):パワハラ、いじめ・嫌がらせを含む、あらゆる労働問題の相談を、予約不要・無料で、面談か電話で受け付けています。匿名でも相談でき、プライバシーは守られます。土日・祝日・年末年始は休みです。
  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):パワハラ・カスハラを防ぐための会社の措置や、相談したことを理由とする不利益な取扱いをめぐるトラブルについて、労働局長による援助と調停を無料で行っています。
  • 労働基準監督署(労災の請求):仕事が主な原因で精神障害を発病したと考えられるときは、労災保険の請求ができる場合があります。会社が事業主の証明を拒んだ場合でも請求はできるとされています。最寄りの労働局か労働基準監督署に相談してください。
  • 弁護士・法テラス:損害賠償の請求や、退職・休職を含めた進め方は、弁護士に相談してください。法テラス・サポートダイヤル 0570-078374(平日9時〜21時、土曜9時〜17時)で、相談窓口や法律相談の案内を受けられます。収入と資産が一定の基準以下などの条件を満たせば、無料の法律相談(1回30分、同じ問題につき3回まで)を利用できる場合があります。
  • 心の不調の相談:厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」に、電話・SNS・メールの相談窓口の案内があります。
  • 暴力や脅迫を受けたとき:身の安全を優先してください。緊急のときは110番に通報してください。

よくある質問

パワハラの証拠がメモだけでも大丈夫ですか?

メモだけでも、証拠として出すことはできます。ただし本人が書いたものなので、ほかの材料と合わせて評価されます。出来事から時間をおかずに、日時・場所・相手・言われた言葉・周りにいた人を具体的に、続けて書いたメモほど信用されやすいとされています。あわせて、通院していれば診断書、相談した記録、見ていた人の名前など、メモの内容と合う記録を少しずつ足していくことが大切です。足りるかどうかは、総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。

録音は、パワハラの証拠になりますか?

暴言や威圧的な叱責をそのまま示せるため、有力な材料になりえます。民事の裁判では、相手に断らずに録音したものでも、著しく反社会的な方法で集めたものでなければ証拠として使えるという考え方が、弁護士の解説で紹介されています。録るのは自分が相手と話している場面に限り、自分がいない場所に録音機を置かないでください。就業規則で録音が禁止されている場合は、懲戒の対象になるおそれもあるため、先に弁護士に相談してください。録音は編集せず、元のファイルを残しましょう。

LINE のスクショは、パワハラの証拠になりますか?

証拠として出すことはできます。信用してもらうには、日付と時刻、相手の名前が写った画面全体を、前後のやりとりも含めて続けて撮り、相手のプロフィール画面も残してください。トーク履歴のテキスト保存もあわせて残し、元のトークは消さないでおきます。相手が送信を取り消すとこちらの画面からも消えるため、届いたときに早めに保存しておくのが確実です。

パワハラの証拠がないときは、どうすればいいですか?

今日から、いつ・どこで・誰に・何を言われたか、周りにいた人、体調への影響をそのつど記録し始めてください。これまでのことは、今日の日付で「思い出して書いた」とわかる形で書き出します。古いメールやチャット、勤務の記録、通院の記録、家族に送ったメッセージなどに手がかりが残っていないかも探します。証拠がそろっていなくても、社内の窓口や総合労働相談コーナー(無料・予約不要)、弁護士・法テラスに相談できます。

パワハラの日記は、どう書けばいいですか?

その日のうちに、日付・時刻、場所、相手、言われた言葉(できるだけそのまま)、きっかけや前後の流れ、周りにいた人、自分の対応、体調や仕事への影響を書きます。消せるペンや鉛筆は避け、書き間違えは消さずに線を引いて直します。後からまとめて書いたと言われないよう、書いたページを当日に写真に撮って家族に送る、タイムスタンプで固定するなどの方法もあります。ただし、これらが示すのは「遅くともその日に書かれていたこと」で、内容が本当であることまでは示せません。

出典