なぜ、本物の写真まで疑われるのか
生成AIやスマートフォンの編集機能で、写真と見分けのつかない画像を誰でも作れるようになりました。警察庁も、SNS 上の写真や翻訳アプリ、生成AIを使えば、誰でも容易に他人になりすませると注意を呼びかけています。
その裏返しとして、本物の写真を出しても「AIで作ったのでは」「加工したのでは」と言われる場面が増えています。Microsoft Research の報告書(2026年1月)も、AI の判定結果が本物のコンテンツを退けるために使われる動きが増えていると指摘しています。
見た目だけで「本物だ」と示すのは難しくなりました。AI 判定ツールにも誤りがあります。米国立標準技術研究所(NIST)は、学習に使われていない生成AIの画像や、圧縮・縮小された画像では誤りが大きくなること、本物を AI 生成と誤って判定すると深刻な被害につながりうることを指摘しています。だからこそ、判定の結果より先に、「その写真がどこから来たか」を説明できる材料をそろえることが大切です。
写真は証拠としてどう扱われるか
この節は、民事裁判での一般的な考え方の説明で、法的な助言ではありません。個別の事件での扱いは、弁護士に相談してください。
- 写真にも「書証」の規定が使われます。民事訴訟法は、写真や録音テープなど、情報を表すために作られた文書でない物にも、文書を証拠とする規定を準用するとしています(第231条)。電子データのまま出す場合も、同じように準用されます(第231条の2・第231条の3)。
- 「本物として作られたこと」は、出す側が示します。文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない、とされています(第228条第1項)。写真なら、撮影者とされる人が撮ったものであること、後から作り変えたものではないことを説明できるかが問われます。
- 「本物として作られたか」と「内容がどこまで確かか」は別の問題です。法務省の資料は、文書が作成者とされる人の意思で作られたか(形式的証拠力)と、書かれた内容がどの程度確からしいか(実質的証拠力)を分けて説明しています。証拠をどう評価するかは、最終的に裁判官の自由な心証に委ねられます(第247条)。
- 撮影の情報を添えるのが基本です。知的財産高等裁判所は、写真などを書証として出すとき、撮影対象・撮影者・撮影日時・場所を証拠説明書の標目に書くよう案内しています。
なお、2026年5月21日から民事訴訟の手続がデジタル化され、証拠をオンラインで提出できるようになりました。写真を電子データのまま扱う場面は、これから増えていきます。
疑われたときの5つの準備
5つの準備は、それぞれ示せることと限界が違います。1つだけに頼らず、組み合わせてそろえるのが基本です。
| 準備 | 示せること | 限界 |
|---|---|---|
| ① 元のファイル | 送信・編集を経ていない、撮影したままの状態 | 消したり上書きしたりすると取り戻せない |
| ② 撮影の記録 | 撮影対象・撮影者・日時・場所と、撮影の経緯 | 本人の説明なので、ほかの材料と合わせて評価される |
| ③ ハッシュ値・タイムスタンプ | その時点でファイルが存在し、以後1バイトも変わっていないこと | 撮影した時刻そのものは示せない |
| ④ 撮影情報・電子署名 | 撮影機器や日時の記録、対応機種なら署名つきの来歴 | 撮影情報は書き換えられる。署名つきの写真はまだ少ない |
| ⑤ 第三者の確認 | AI 生成・加工の手がかりの有無 | どの方法にも見逃し・誤りがある |
① 元のファイルを残す
最も大切なのは、撮影した端末に残っている、元のファイルです。メッセージアプリで送ったもの、SNS に投稿したもの、スクリーンショットは、画像が縮小・再圧縮されたり、撮影情報が消えたりしていることがあります。
- 元のファイルは、編集ソフトで開いて保存し直したり、トリミングしたりせず、そのまま保存します。見せるための加工が必要なら、必ずコピーに対して行います。
- 端末の機種変更や初期化、写真の整理で消えないよう、パソコンや外部の記録媒体にも同じファイルを保存しておきます。
- クラウドにバックアップしている場合は、元の画質のまま保存されているかも確かめておきましょう。
② 撮影の記録を書き出す
記憶が新しいうちに、次のことを書き出しておきます。書いた日付も残します。
- 撮影対象・撮影者・撮影日時・場所(裁判所が写真の証拠に添えるよう求めている項目です)
- 撮影に使った端末(機種)と、なぜ撮影したのかという経緯
- 撮影した後、誰に、いつ、どの方法で送ったか・見せたか
③ ファイルの状態を固定する(ハッシュ値とタイムスタンプ)
「あとから作り変えたのでは」という疑いに答えるには、ある時点から変わっていないことを示せるようにしておくのが有効です。
- ハッシュ値(SHA-256)は、ファイルの内容から計算する「指紋」のような値です。1バイトでも変われば別の値になるので、記録しておけば、後で同じファイルかどうかを誰でも確かめられます。
- タイムスタンプは、信頼できる第三者(タイムスタンプ局)が、そのハッシュ値がその時刻に存在したことを証明する仕組みです(国際標準 RFC 3161)。「その時点より後に作ったものではない」ことを示せます。
- ただし、どちらも撮影した時刻そのものを証明するものではありません。できるだけ撮影に近い時点で固定しておくほど、説明しやすくなります。
④ 撮影情報(Exif)と電子署名(C2PA)を確かめる
元のファイルには、撮影日時・機種などの撮影情報(Exif)が残っていることがあります。説明の材料にはなりますが、撮影情報は無料のツールで書き換えられるため、それだけでは決め手になりません。
一部のカメラやスマートフォンは、撮影の来歴をC2PA(コンテンツクレデンシャル)という国際規格の電子署名つきで記録します。たとえば Google の Pixel 10 は、標準のカメラで撮ったすべての JPEG に C2PA の情報を付けます。署名つきの写真なら、確認ツールで、どの機器で撮影されたと記録されているか、署名の後に書き換えられていないかを確かめられます。
ただし、署名が示すのは「どの機器・ソフトで作られたと記録されたか」までです。写っている内容が事実かどうかまでは保証しません。
⑤ 第三者に確かめてもらう
画像の鑑定サービスや専門家に、AI による生成・加工の手がかりがないかを調べてもらうことも、説明の材料になります。調べ方は画像が加工されているか調べる方法やAI画像の見分け方で詳しく解説しています。
ただし、どの方法にも見逃しや誤りがあります。結果は①〜④の材料と合わせて使い、裁判や示談など重要な場面では弁護士に相談してください。
やってはいけないこと
- 疑われた写真を編集してから出す。明るさの補正やトリミングでも、「加工した」と言われる材料になります。
- 元のファイルを消して、スクリーンショットや送り直したファイルだけを残す。撮影情報や画質が失われ、後から取り戻せません。
- AI 判定サイトの「本物 ○%」の画面を、それだけで本物の証明として出す。判定には誤りがあり、別のツールで逆の結果が出ることもあります。
- 相手を責める投稿で言い争う。写真をさらしたり相手を非難したりすると、別のトラブルを招くことがあります。
LINE や SNS で受け取った写真の場合
自分で撮ったのではなく、送られてきた写真を証拠にしたい場合は、準備の仕方が少し変わります。多くの SNS やメッセージアプリは、投稿や送信のときに撮影情報を消したり、画像を再圧縮したりします。受け取ったファイルから、撮影日時や加工の有無を確かめるのは難しくなります。
- 受け取ったファイルを、そのまま保存する(アプリの中だけに置いておかない)。
- 誰から、いつ、どのアプリで受け取ったかを記録する。やりとりの画面も保存しておく。
- 可能なら、撮影した本人に元のファイルを出してもらう。
PEA でできること・できないこと
PEA は、画像を性質の異なる8つの解析で調べ、AI による生成・加工の手がかりを1〜10のグレードで示す画像鑑定サービスです。
- 無料の鑑定(1日1件)で、グレードと判定の要約がわかります。
- 鑑定書(1件¥1,000)にすると、ファイルのハッシュ値・電子署名・第三者のタイムスタンプで、「そのファイルが発行の時点で存在し、以後変わっていないこと」と鑑定の内容を、第三者が証明書番号で照合できるようになります。③の「ファイルの状態を固定する」を、鑑定とあわせて行えます。
- 担当者が画像を確認する有人鑑定(1件¥10,000)も依頼できます。法廷での証言や意見書の作成は含みません。
PEA は、撮影した日時や撮影者、写っている内容が事実かどうかは証明できません。鑑定書が裁判で証拠として採用されることも保証できません。鑑定の結果は判断材料の一つとして、①・②の材料と合わせて使ってください。
よくある質問
AI判定ツールで「本物」と出た画面を、証拠として出せますか?
出すことはできても、それだけで本物だと示すのは難しいと考えてください。AI 判定には誤りがあり、ツールによって結果が変わることもあります。元のファイルと撮影の記録を中心にそろえ、判定の結果は補足の材料として使うのが安全です。
スクリーンショットしか残っていません。証拠になりませんか?
証拠として出せるかどうかと、どこまで信用されるかは別の問題です。スクリーンショットには撮影情報が残らず、加工の有無も確かめにくくなります。元のファイルが端末やクラウドに残っていないか探し、見つからない場合は、スクリーンショットを撮った経緯を記録しておきましょう。個別の判断は弁護士に相談してください。
写真を撮った日時を証明できますか?
撮影情報(Exif)の日時は書き換えられるため、それだけでは決め手になりません。タイムスタンプで示せるのは「その時点でファイルが存在した」ことで、撮影した時刻そのものではありません。撮影時に来歴を電子署名で記録するカメラやスマートフォン(C2PA 対応機種)で撮った写真なら、記録された撮影情報とその改ざんの有無を確かめられます。
PEA の鑑定書は、裁判で証拠として認められますか?
証拠として出せるか、どう評価されるかは、裁判所が個別に判断します。PEA の鑑定書は、ファイルが発行の時点で存在し、その後変わっていないことと鑑定の内容を、第三者が照合できる形で示すもので、判断材料の一つです。重要な場面では弁護士に相談してください。
相手が「AIで作った画像だ」と言い張っています。どうすればよいですか?
言い争うより、元のファイル・撮影の記録・受け渡しの経緯をそろえることを優先してください。そのうえで第三者の鑑定などを材料に加え、交渉や裁判が見込まれるなら、早めに弁護士に相談しましょう。
出典
- e-Gov 法令検索: 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第228条・第231条・第231条の2・第231条の3・第247条
- 法務省提出資料: 民事訴訟法第228条第4項とは(規制改革推進会議 成長戦略ワーキング・グループ、2020年5月12日)
- 知的財産高等裁判所: 書証等の提出について
- 裁判所: 民事訴訟手続のデジタル化
- 警察庁: SNS型ロマンス詐欺
- NIST AI 100-4: Reducing Risks Posed by Synthetic Content(2024年11月)
- Microsoft Research: Media Integrity and Authentication: Status, Directions, and Futures(Technical Report、2026年1月)
- RFC 3161: Internet X.509 Public Key Infrastructure Time-Stamp Protocol (TSP)
- Google: How Pixel and Android are bringing a new level of trust to your images with C2PA Content Credentials(2025年9月10日)
- Content Authenticity Initiative: Content Credentials Verify(C2PA の確認)