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なぜ退去時の写真が大切なのか

退去するときの修繕費をめぐるトラブルの多くは、「その傷はいつ、どうしてできたのか」という食い違いから起きます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、トラブルの大きな原因として、入居時と退去時の物件の確認が不十分なことを挙げ、入退去時にチェックリストを作って当事者が立ち会って確認すること、あわせて写真を撮るなどの「目に見える手段」を使うことが重要だとしています。

退去時の写真には、入居時の写真とは別の役割があります。

  • 退去した時点の状態を示せる。請求書は退去から数週間たって届くこともあります。そのときには部屋に入れず、修繕が始まっていれば、指摘された傷を見ることもできません。手元の写真が、退去時の状態を示すほとんど唯一の材料になります。
  • 「指摘されていない場所」の状態も示せる。部屋全体を一通り撮っておくと、後から別の場所の傷を請求されたときに、退去時の様子と見比べられます。
  • 入居時の写真と見比べられる。同じ場所を同じ向きで撮っておけば、「入居前からあった傷」「住んでいる間に増えた傷」を区別しやすくなります(入居時の写真の撮り方)。

国民生活センターには、賃貸住宅の原状回復の相談が毎年寄せられています(2023年度 13,273件、2024年度 13,312件、2025年度 14,711件。2026年度も5月末時点で1,846件と、前年同期の1,645件を上回っています)。紹介されている事例には、「立会いで問題なしと言われたのに、後日、床の修繕費を請求された」というものもあります。立会いの場で何も言われなくても、退去時の状態を自分で記録しておく意味があります。

いつ撮るか:荷物を出して掃除を終え、鍵を返す前に

  • 荷物をすべて運び出し、掃除を終えたあとに撮ります。家具がなくなって初めて見える床や壁の状態を残すためです。掃除が終わっていることも、写真で示せます。
  • 立会いの前に、自分で一通り撮っておきます。立会いの場では、指摘された箇所を撮るので手一杯になりがちです。
  • 立会いがない退去(鍵を郵送で返すなど)では、鍵を返す前が最後の機会です。国土交通省の参考資料(令和5年3月)は、立会いがない場合は退去前に写真を撮っておくことも有用だとしています(管理会社へのアンケートでは、立会いを求めない会社が約7%ありました)。東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」も、貸主が立ち会えないときは借主だけでも確認書を作り、日付の入った写真などを撮っておくよう勧めています。
  • 明るい時間帯に、照明が外されていない部屋は点けて撮ると、細かい傷や汚れまで写ります。

退去時に撮るもの(チェックリスト)

国土交通省の「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」に並んでいる場所をもとにまとめました。国土交通省の参考資料(令和5年3月)では、特にトラブルになりやすい部位として、管理会社へのアンケートでクロス(壁紙)とフローリングが多く挙げられています。この2つは念入りに撮りましょう。

退去時に撮るもののチェックリスト
場所撮るもの退去時のポイント
居間・各部屋天井、壁(クロス)、床、窓・サッシ・網戸、押入れ・クローゼットの中、照明の取り付け部分家具を置いていた場所の床と壁、家具の裏だった壁を必ず撮る。家具の設置跡やテレビ・冷蔵庫の裏の黒ずみは、通常損耗の例として法務省も挙げている
床(フローリング・畳・カーペット)部屋全体と、傷・へこみ・変色・日焼けのアップ引きの写真で場所がわかるようにしてから、浅い傷はスマホのライトを斜めから当ててアップで
壁(クロス)汚れ・はがれ・穴・画びょうの跡・日焼け部屋ごとに四方の壁を撮る。張り替えを請求されやすいので、汚れのない壁も含めて全体を残す
台所シンク、コンロとその周り、換気扇、戸棚の中、床掃除をしたあとの状態を残す。油汚れや焦げはアップで
浴室・洗面所・トイレ浴槽、壁・床・天井、排水口、鏡、洗面台、便器、防水パンカビや水あかは、場所がわかる引きとアップの両方を撮る
設備エアコン、給湯器、換気扇、インターホン、照明動作する様子を動画で残す。エアコンは吹き出し口も撮る
玄関・バルコニー玄関ドアの内外、鍵、下駄箱、バルコニーの床・排水口鍵は返す前に、本数がわかるように並べて撮る
入居時に記録した傷入居時の写真・確認リストに載っている箇所入居時と同じ向き・同じ距離で撮り、「入居時からあった」と見比べられるようにする

撮り方のコツ:入居時と同じ場所・同じ向きで

  1. 入居時の写真を見ながら撮る。同じ場所を同じ向き・同じ距離で撮ると、見比べるだけで違いがわかります。入居時の写真がなければ、部屋ごとに入口から時計回りなど順番を決めて撮ります。
  2. 「引き」と「寄り」を1組で撮る。傷のアップだけでは、どの部屋のどこの傷かを説明できません。
  3. 大きさがわかるものを添える。メジャーや定規を傷の横に置くと、傷の大きさが伝わります。
  4. 部屋を一周する動画も撮る。傷の位置関係と、部屋全体が片付いて掃除されていることが伝わります。
  5. 加工しない。トリミングや明るさの補正、フィルターは使いません。見やすくしたいときは、必ずコピーに対して行います(証拠の写真を「加工した」と疑われたら)。
  6. 撮り終えたら、その場で枚数と写りを確かめる。鍵を返したあとは撮り直せません。

退去立会いでの注意

  1. 入居時の写真・確認リスト・管理会社に送ったメールを持って立ち会います。国土交通省の参考資料も、退去時には入居時に撮った写真や物件状況リストを用意しておくよう呼びかけています。
  2. 指摘された箇所は、その場で写真に撮ります。何を指摘されたのかをメモし、入居時の写真があれば見比べながら説明します。
  3. 確認書へのサインは、内容を読んでから。ガイドラインの Q&A では、単に損傷があることの確認であれば、費用の負担まで了承したものではないと考えられるとしています。負担を了承する書面であれば、基本的にその内容で負担額が決まるため、疑問があれば質問するなど、十分慎重に行うよう書かれています。ただし、原状回復の特約がなければ、借主の故意・過失によらない損耗の分まで支払う理由はない、とも説明しています。
  4. その場で金額を決めない。費用の負担は、請求の内訳を見てから判断して構いません。

写真を撮っていない・入居時の写真がないとき

  • 通常損耗と経年変化は、写真がなくても借主の負担ではありません。2020年4月1日から施行された改正民法(第621条)は、借主が元に戻す義務を負うのは「物件を受け取った後に生じた損傷」で、普通に使っていて生じる損耗(通常損耗)と年月による劣化(経年変化)は対象外だと定めています。入居前からあった傷も対象外です。
  • 請求の根拠を、貸主・管理会社に尋ねます。どの箇所の、どんな損傷に、いくらの工事をするのか。管理会社が立会いで撮った写真や、入居時の確認書があれば、見せてもらえないか相談します。
  • まだ部屋に入れるなら、今から撮ります。鍵を返す前であれば、立会いの後でも撮っておく価値があります。
  • ほかの記録を探します。内見や契約のときの写真、住んでいる間に撮った写真(背景に壁や床が写っているもの)、管理会社とのやりとりなどです。
  • 借主が負担する場合でも、範囲には考え方があります。国土交通省の参考資料は、経過年数が考慮され、負担の範囲は傷の部分の補修に必要な最低限の工事費用が基本としています(次の節)。

退去費用の請求が届いたら

  1. 内訳を確認します。何の工事に、いくらかかるのか。どの箇所の工事か、単価と数量、経過年数と負担割合がわからなければ、管理会社に説明を求めます。ガイドラインの Q&A は、貸主には敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、借主は明細を請求できるとしています。国土交通省の賃貸住宅標準契約書も、敷金から差し引く額の内訳を示すよう定めています。また、元より良い仕様にする分(グレードアップ)の費用を払う必要はありません。
  2. 通常損耗・経年変化が含まれていないか確かめます。家具を置いたことによる床のへこみや設置跡、テレビや冷蔵庫の裏の壁の黒ずみ(電気ヤケ)などは、原則として借主の負担ではありません(法務省のパンフレットの例)。
  3. 入居時・退去時の写真と見比べます。請求された箇所が、入居時からあった傷ではないか、退去時に本当にあったかを確かめます。国土交通省の参考資料も、写真などの根拠をお互いに示して話し合うよう勧めています。
  4. 契約書の特約を確認します。ハウスクリーニング代などを借主の負担とする特約がある場合は、その内容も見ます。東京都内の物件では、契約のときに、原状回復の原則や借主が負担する特約の内容を書面で説明する決まり(東京ルール)があるので、そのときの書面も確かめます。ガイドラインは一般的な基準で、法的な拘束力を持つものではありません。

経過年数の考え方

国土交通省のガイドラインは、借主が負担する損傷があっても、修繕費の全額を負担するわけではないとしています。年月による劣化や通常の損耗の分は家賃で支払い済みと考えられるため、設備や内装の耐用年数に応じて、住んだ年数が長いほど借主の負担割合が下がる考え方です(耐用年数を過ぎると、残りの価値は1円とします)。

主な部位の耐用年数と扱い(国土交通省のガイドライン別表2・参考資料から)
部位耐用年数・扱い
クロス(壁紙)6年。6年を過ぎると残りの価値は1円。負担の範囲は、傷を含む一面分まで(喫煙で部屋全体が変色・臭いが付いた場合は全体)
カーペット、クッションフロア、畳床6年
フローリング部分補修は経過年数を考えず、補修費は借主の負担。全体を張り替える場合だけ、建物の耐用年数で考える
畳表、襖紙・障子紙消耗品として、経過年数は考えない
エアコン、インターホン、ガス機器6年
流し台5年
便器、洗面台15年

参考資料の計算例では、クロスは住んで3年なら負担は50%、2面の張り替え(20㎡、単価1,200円)で住んで4年なら、負担は33.3%の8,000円です。一方、フローリングの部分補修(2㎡、単価15,000円)は経過年数を考えないため、30,000円の全額が負担になります。入居したときに新品でなかった場合は、出発点を当事者で協議して決めます。

なお、耐用年数を過ぎた設備でも、借主の故意・過失による損傷を直すための工事費や人件費は、負担を求められることがあります。どの部位が何年で計算されているかは、請求の内訳で確かめましょう。

写真の残し方と、日付の示し方

  • 元のファイルを残す。スマホに入っている、撮影したままのファイルが最も大切です。メッセージアプリで送り直したものではなく、元のファイルを保存します。
  • スマホの外にも保存する。パソコンや元の画質で保存されるクラウドなど、2か所以上に同じファイルを置きます。敷金の精算が終わるまでは消さないでください。
  • その日のうちに管理会社に送る。メールなど記録が残る方法で、「退去時の室内の状況」として送ると、相手の手元にも日時つきの記録が残ります。

スマホの写真に記録される撮影日時は、iPhone の「写真」アプリや Google フォトで後から変更でき、端末の時計も手動で設定できます。日付をより説明しやすくするには、自分の端末の外に、日時つきの記録を残すことが有効です。管理会社へのメールのほか、第三者のタイムスタンプ(国際標準 RFC 3161)で、写真のファイルが「その時刻に存在し、以後変わっていない」ことを固定する方法もあります。示せるのはファイルが存在した時刻で、撮影した時刻そのものではありません。日付の示し方の比較は、写真の日付を証明するにはで詳しく解説しています。

納得できないときの相談先

  • 消費者ホットライン「188(いやや!)」:最寄りの市区町村や都道府県の消費生活センターなどを案内する、全国共通の電話番号です。
  • 法テラス・サポートダイヤル(0570-078374):平日9時〜21時、土曜9時〜17時。問題の解決に役立つ法制度や相談窓口を無料で案内しています。
  • 話し合い以外の方法:少額訴訟、民事調停、ADR(裁判外紛争解決手続)などがあります。少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める手続きで、原則として相手の住所地の簡易裁判所に申し立て、原則1回の審理で終わります。証拠は最初の期日までに出し、その場で調べられるものに限られます(裁判所のウェブサイト)。退去時の写真は、その中心になる材料です。

敷金は、賃貸借が終わり、部屋を明け渡したあとに、未払いの家賃などを差し引いた残りが返されるものです(民法第622条の2)。原状回復の費用を差し引くなら、その根拠を示すよう求めましょう。

PEA でできること・できないこと

PEA は、画像を性質の異なる8つの解析で調べ、AI による生成・加工の手がかりを1〜10のグレードで示す画像鑑定サービスです。傷が誰の責任か、修繕費が妥当かを判断するものではありません。

まずは、費用のかからないことから。写真を撮る、元のファイルを残す、管理会社に送る。これがいちばん先にやることです。PEA の鑑定書は、そのうえで「請求が高くなりそうな箇所」の写真に使う、追加の手段です。

  • 退去日の時点で写真が存在したことを、第三者が照合できる形で残せます。鑑定すると、写真のファイルのハッシュ値(SHA-256)と鑑定の内容に、電子署名と第三者のタイムスタンプ(RFC 3161)が付きます。タイムスタンプの時刻は、鑑定した時点です。鍵を返す日に鑑定しておけば、「遅くとも退去日に、この写真が存在した」ことを示す材料になります。
  • 鑑定書にするのは7日以内です。無料の鑑定の結果は7日で消えます。残したい写真は、7日以内に鑑定書(1件¥1,000)にしてください。鑑定書にすると、管理会社や弁護士など見せた相手が、証明書番号で照合のページから、発行日時・ファイルのハッシュ値・タイムスタンプの時刻を確かめられます。
  • 全部の写真を鑑定書にする必要はありません。フローリングの広い範囲、クロスの張り替えを求められそうな壁、設備の破損など、請求が高くなりそうな箇所の1〜数枚に絞るのが現実的です。無料の鑑定は1日1件までで、登録とメールアドレスの確認が必要です。同じ日に数枚を鑑定したい場合は、Plus(¥10,000 / 月)という選択肢もあります。詳しくは料金のページをご覧ください。
  • 鑑定に出したファイルは、そのまま残してください。開いて保存し直したり、トリミングしたりすると、ハッシュ値が変わって照合できなくなります。
  • 写真のファイル(JPEG・PNG・HEIC、25MBまで)が対象です。部屋を一周した動画は鑑定できません。元のファイルのまま保存しておいてください。
  • 画像は、ご本人だけが見られる設定で保存します。運営者は画像を見ません。担当者が画像を確認するのは、有人鑑定をご依頼いただき、開示に同意された場合だけです。鑑定の一部では、外部の解析サービスに画像を送信します(送信先はプライバシーポリシーに記載しています)。

PEA は、写真を撮った日時や撮影者、どの部屋の写真か、傷がいつ・誰によってできたかは証明できません。示せるのは、そのファイルが鑑定の時点で存在し、以後変わっていないことと、鑑定の内容です。鑑定書のタイムスタンプは、総務大臣の認定を受けたタイムスタンプではありません。管理会社や裁判所がそれをどう評価するかは保証できません。鑑定書は、元の写真・入居時の記録・管理会社へのメールと合わせて使ってください。

よくある質問

退去時の写真は、いつ撮ればいいですか?

荷物をすべて運び出し、掃除を終えたあと、立会いの前(鍵を返す前)に撮るのが基本です。家具がなくなって初めて見える床や壁の状態を残せます。鍵を返すと部屋に入れず、修繕が始まれば傷も見られなくなるので、請求が届いてから撮り直すことはできません。立会いがない退去では、鍵を返す前が最後の機会です。

退去時の写真を撮っていません。どうすればいいですか?

鍵を返す前なら、今からでも撮ってください。返したあとなら、請求の根拠(どの箇所の、どんな損傷に、いくらの工事をするのか)を管理会社に尋ね、立会いで撮った写真があれば見せてもらえないか相談します。普通に使っていて生じる損耗や年月による劣化は、写真がなくても借主が元に戻す義務の対象ではありません(民法第621条)。内見や住んでいる間に撮った写真など、ほかの記録も探しましょう。

クロス(壁紙)の張り替え費用は、全額払う必要がありますか?

借主が負担する傷でも、全額とは限りません。国土交通省のガイドラインでは、クロスの耐用年数は6年で、住んだ年数が長いほど借主の負担割合が下がり、6年を過ぎると残りの価値は1円とされています(参考資料の計算例では、住んで3年なら負担は50%)。負担の範囲も、原則として傷を含む一面分までです。請求の内訳で、経過年数と負担割合がどう考慮されているかを確かめてください。

退去立会いの確認書には、サインしなければいけませんか?

内容を読んでから判断してください。ガイドラインの Q&A では、単に損傷があることの確認であれば、費用の負担まで了承したものではないと考えられるとしています。負担を了承する書面なら、基本的にその内容で負担額が決まるため、疑問があれば質問するなど慎重に行うよう書かれています。その場で金額を決める必要はありません。

退去費用の請求に納得できないときは、どうすればいいですか?

まず明細を求めてください。ガイドラインの Q&A は、貸主には敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、借主は明細を請求できるとしています。入居時・退去時の写真と見比べ、通常損耗や経年変化が含まれていないか、経過年数が考慮されているかを確かめます。解決しないときは、消費者ホットライン(188)、法テラス、弁護士に相談できます。60万円以下なら少額訴訟という方法もあります。

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