日記は証拠になる?
民事訴訟法は、裁判官が「自由な心証により」事実を判断すると定めています(第247条)。証拠になるものを限る定めはなく、弁護士の解説でも、著しく反社会的な手段で集めたものなどの例外を除き、証拠として出すこと自体は基本的に制限されないとされています。日記やメモも、証拠として出せます。
問題は、どこまで信用されるか(証明力)です。企業側の立場の弁護士は、メモや日記の信用性は一般的にはあまり高くないと解説しています。相手が「事実と違う」「後から作った」と争えば、日記の書き方や、ほかの証拠と合っているかが見られます。
信用されやすい日記の書き方
厚生労働省の「あかるい職場応援団」は、ハラスメントを受けたら、いつ・どこで・誰が・何を・何のために・どのように(5W1H)したのかを記録し、メモや録音など最適な方法で記録を残すよう勧めています。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 日時 | 2026年10月20日(月)午後7時ごろ |
| 場所 | 自宅のリビング/会社の会議室 など |
| 相手 | 誰が(名前・立場) |
| 具体的な言動 | 言われた言葉は、できるだけそのまま書く。されたこと(物を投げた、など) |
| 周囲の状況 | その場にいた人、見ていた人、物音を聞いた人 |
| 自分がどう感じたか・どうなったか | 事実とは分けて書く(怖かった、眠れなかった、受診した、など) |
宮崎県の労働相談の事例は、日時・場所・周囲の状況・加害者・具体的な言動を記録し、「客観的事実」と「どう感じたか(主観)」を分けて記録するとよいとしています。
弁護士の解説では、次のような書き方が信用性を高めるとされています(実務上の助言です)。
- 出来事のたびに、その日のうちに書く。時間が空いてから書いたものや、まとめて書いたものは、信用性が下がりやすい。
- 具体的に書き、感情的な表現は避ける。
- 紛争になる前から、続けて書く。日常の出来事も書いてある日記は、その一部だけを後から作ったと疑われにくい。
- 1冊のノートに、消えないペンで書く。余白を作らず、書き直すときは消さずに線を引く。
- 写真・診断書・メッセージなど、ほかの証拠と合わせる。
日記・メモの信用性が判断された裁判例
| 裁判 | どう判断されたか |
|---|---|
| 福岡高裁 平成25年7月30日判決(パワハラ) | 紛争が起きる前に、日記という継続的な記録の一部として書かれたもので、特段の事情がない限り信用性が高い、と判断されたと紹介されています。 |
| 名古屋地裁 令和5年1月16日判決(セクハラ) | 被害の直後に送ったメッセージや、警察への相談の記録が、被害者の話の信用性を高めると判断されたと紹介されています。 |
| 東京高裁 令和3年5月13日判決(セクハラ) | 被害から1年以上たってからの申告で、出された LINE のやり取りに日付がなく、後から容易に作れるとして、証拠としての価値は高くないと判断されたと紹介されています。 |
| 札幌高裁 平成19年10月30日判決 | 遺族から求められて後から書かれた上司のメモが、証拠として採用されなかった例として紹介されています。 |
どの判決も、「いつ書いたか」「その場で書いたか」「ほかの記録と合うか」が見られています。
手書きとスマホ(アプリ・メモ)の違い
公的な比較の資料は見つかりませんでした。以下は弁護士の解説です。
- 手書き:筆跡で本人が書いたとわかりやすく、書き直した跡も残るため、証拠としての価値が高いとする弁護士がいます。
- アプリ・スマホのメモ:続けやすい一方、後から編集できるため、改ざんを疑われて信用性で不利になりやすいという指摘があります。手書きを基本にし、アプリは補助として使う、ノートのページを撮影して残す、といった方法がすすめられています。
- 家族・友人・同僚に送ったメッセージ:第三者に相談したメールや LINE は、証拠としての価値がより高いとする弁護士がいます。
「後から書いた」と言われないための残し方
| 方法 | 示せること | 費用・手続き |
|---|---|---|
| 確定日付(公証役場) | その日にその文書が存在したこと。内容が本当かどうかは証明しない | 1件700円。署名か記名押印のある私文書が対象。本人確認書類は不要 |
| 電子確定日付 | その日に電子データ(PDF など)が存在したこと | 700円(保存は300円)。法務省のオンライン申請システムの登録と専用ソフトが必要 |
| タイムスタンプ | ある時刻にその電子データが存在し、以後改ざんされていないこと | 民間のサービス。総務大臣の認定制度がある |
| 第三者への相談・連絡 | その時期に被害を訴えていたこと | 家族・友人へのメッセージ、相談窓口・警察・病院の記録 |
どの方法も、日記に書いた内容が本当かどうかまでは証明しません。「遅くともその時点で、この日記があった」ことを示し、後から作ったという疑いを弱めるためのものです。日記のページを撮影した写真に、第三者のタイムスタンプを付けて残す方法もあります(PEA でできること)。
DV の記録を保護命令で使うときの注意
- 相談した事実が手続きで意味を持つ。保護命令の申立書には、配偶者暴力相談支援センターや警察に相談した事実(相談先・日時・内容など)を書く欄があり、書けない場合は公証人の認証を受けた書面が必要です(配偶者暴力防止法第12条)。日記とあわせて、相談した記録を残しておきましょう。
- 出した書類は相手にも送られる。京都地方裁判所は、提出された申立書と証拠書類(診断書・写真・陳述書など)は相手方に送付すると案内しています。日記を出すときは、今の住所や避難先がわかることが書かれていないか確かめてください。
- 写真や診断書も一緒に。兵庫県弁護士会のリーフレットは、けがや壊れた物の写真、診断書、メール・LINE・SNS の履歴、録音を証拠の例に挙げ、警察に相談するときは日時や場所を詳しく記録するよう勧めています。
身の危険があるときは、記録より安全を優先し、すぐに110番してください。DV の証拠の残し方はDV の証拠の残し方で、モラハラはモラハラの証拠の集め方で、パワハラはパワハラの証拠の集め方で解説しています。
相談先
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー(厚生労働省) | パワハラ・いじめ・嫌がらせなど労働問題全般。予約不要・無料。各都道府県の労働局・労働基準監督署など |
| DV相談+(内閣府) | 0120-279-889。電話は24時間。チャットは12時〜22時 |
| DV相談ナビ | #8008。近くの配偶者暴力相談支援センターにつながる |
| 警察相談専用電話 | #9110(緊急のときは110番) |
| みんなの人権110番(法務省) | 0570-003-110。平日8時30分〜17時15分 |
| 法テラス・サポートダイヤル | 0570-078374。法制度や相談窓口の案内 |
PEA でできること
- 日記のページや、スクショ・写真を封印する:鑑定すると、ファイルのハッシュ値と鑑定の内容に、電子署名と第三者のタイムスタンプが付きます。タイムスタンプの時刻は鑑定した時点で、「遅くともその時点でそのファイルが存在し、以後変わっていない」ことを、証明書番号から第三者が確かめられます。
- できないこと:日記に書いた内容が本当であることや、いつ書いたかそのものは証明できません。総務大臣の認定を受けたタイムスタンプではなく、裁判所がどう評価するかは保証できません。
無料の鑑定は1日1件まで(登録なしで1回お試しできます)。鑑定書は1件¥1,000です。無料で鑑定する
よくある質問
日記は裁判の証拠になりますか?
民事の裁判では、日記やメモも証拠として出せます。民事訴訟法には証拠になるものを限る定めがなく、裁判官が自由な心証で評価します(第247条)。ただし、どこまで信用されるかは別の問題で、出来事のたびに具体的に書き、紛争になる前から続けて書いていたものほど信用されやすいと、弁護士は解説しています。
証拠になる日記には何を書けばいいですか?
厚生労働省は、ハラスメントを受けたら、いつ・どこで・誰が・何を・何のために・どのように(5W1H)したのかを記録するよう勧めています。自治体の相談事例では、日時・場所・周囲の状況・相手・具体的な言動を書き、客観的な事実と自分がどう感じたかを分けて記録するとよいとされています。
スマホのメモや日記アプリでも証拠になりますか?
なりえます。ただし、アプリやメモは後から編集できるため、改ざんを疑われて信用性で不利になりやすいという弁護士の指摘があります。手書きのノートを基本にし、アプリは補助として使う、ノートのページを撮影して残す、といった方法がすすめられています。
「後から書いた日記だ」と言われないためには?
公証役場の確定日付(1件700円)を付けると、その日にその文書が存在したことを証明できます(内容が本当かどうかは証明しません)。電子データなら、ある時刻に存在し以後改ざんされていないことを示すタイムスタンプもあります。家族や相談窓口に相談した記録、出来事の直後に送ったメッセージも、日記の信用性を支える材料になります。
DV の記録を保護命令の申立てで出すときの注意は?
保護命令の申立書には、配偶者暴力相談支援センターや警察に相談した事実を書く欄があります(配偶者暴力防止法第12条)。また、裁判所に出した申立書と証拠書類は相手方にも送られると、京都地方裁判所は案内しています。日記を出すときは、今の住所や避難先がわかることが書かれていないか確かめ、弁護士や相談窓口に相談してください。
出典
- e-Gov 法令検索: 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第228条・第247条
- e-Gov 法令検索: 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律 第12条
- 厚生労働省 あかるい職場応援団: 悩んでいる方
- 厚生労働省 あかるい職場応援団: 所属部署が異なる二者間の、反復継続性があったとはいえないパワーハラスメント(福岡高裁 平成25年7月30日判決の解説)
- 厚生労働省 あかるい職場応援団: 北海道銀行(自殺)事件(札幌高裁 平成19年10月30日判決の解説)
- 宮崎県: 労働相談事例(パワハラを受けている、PDF)
- 兵庫県弁護士会: DVに悩むあなたへ(リーフレット、PDF)
- 京都地方裁判所: 保護命令申立手続の流れ(申立人用、PDF)
- 日本公証人連合会: 確定日付・電子確定日付
- 日本公証人連合会: 電子公証(電磁的記録の認証及び電子確定日付)
- 総務省: タイムスタンプについて
- BUSINESS LAWYERS: 民事訴訟で使える証拠とは?証拠能力、証拠価値をわかりやすく解説(2020年9月3日)
- 浅野総合法律事務所: パワハラのメモの作り方は?証拠がメモだけでも訴える方法も解説(2026年9月10日)
- 咲くやこの花法律事務所: パワハラの証拠の集め方と確認すべき注意点などをわかりやすく解説(2023年6月29日更新)
- 難波みなみ法律事務所: モラハラの証拠に日記は有効?認められる書き方・期間を弁護士が解説(2026年8月23日更新)
- 師子角総合法律事務所: 客観的な証拠が多くない中、セクハラを受けたとする被害者供述の信用性が認められた例(名古屋地裁 令和5年1月16日判決の解説)
- 弁護士 師子角允彬のブログ: セクハラを受けたとする被害者供述の信用性が否定された例(東京高裁 令和3年5月13日判決の解説)
- 厚生労働省: 総合労働相談コーナーのご案内
- 内閣府: DV相談プラス
- 内閣府男女共同参画局: DV相談について(DV相談ナビ #8008)
- 警察庁: 公的機関【刑事・民事手続関係】(警察相談専用電話 #9110)
- 法務省: 女性の人権に関する相談について(みんなの人権110番)
- 政府広報オンライン: 困り事の解決方法・相談先が分からない…そんなときは「法テラス」へ